山口県立美術館 開館40周年 ヨーロッパ絵画美の400年

今年、山口県立美術館は開館40周年らしい。私があの狩野芳崖の「悲母観音」と出逢ってから40年経ったということになる。

当時中学生だった私は、少し足の悪かった同級の女の子と文通をしていて、お互い絵が好きだったので一緒に開館記念の展覧会を見に行った。電車を乗り継いで行ったので、帰りはその文通友達のお父さんが家まで送って下さり、駅に置いていた自転車を三人で歩いて取りに行ったのを覚えている。

勿論、絵画は好きだったけれど、当時は知識も少なく初々しかった私が見た「悲母観音像」は強烈だった。本画(重要文化財)の横に、朱で描かれた大下図があって、その朱の色と筆遣いが私には劇的で、絵の前からすぐには立ち去れなかった。非母観音像は芳崖の絶筆となったことを想えば、相当強いエネルギーが込められていたのだろうと今は思う。朱で描かれた燃えるような大下図と、金(金茶色)が多く使われ美しく静謐な本画。今も忘れられない絵画となった。

その狩野芳崖からから40年、何度山口県立美術館に足を運んだことだろう。数えきれない程通っている。20代前半の頃、フランスの絵画展で丁度2万人目?になって図録を貰った事もあるし、招待券が余っているからと見知らぬ人からタダで貰ってみたこともある。もう20年以上も前のことだと思うけれど、展覧会初日チケット売り場に並んでいたら、ど~ぞ、いいですよと(多分お偉いさん達や招待客の人達が案内を受けながら見ていたんだろうと思う)タダで通してもらったこともある。改修前の?夜間の仏像鑑賞も良かった。ピカソシャガールも勿論よかったけれど、すぐに思い出せるほどの印象に残ったのは「大英帝国展」。人がとても多かったけれど、一点一点、見ごたえがあった。

昨日は40周年記念 ヨーロッパ絵画 美の400年(珠玉の東京富士美術館コレクション)を見に行った。個人的には1600年代のレンブラントの生きた時代の頃のオランダ絵画がとても好きで、今回もやはり1600年代の作品をとてもいいなと思った。オランダ東インド会社が設立され貿易が盛んにおこなわれていた頃のオランダの絵画には、血肉の通った人間というものが尊厳をもって描かれている。画家たちは表面の皮膚の下の肉や構造まで、医学にも通じていたであろうと思う。

産業革命以降の作品は社会で取り上げられる機会は多かったと思うけれど、近年は絵画が投機の対象にもなってきたし、いびつな解釈により、随分歪んだところもあるのではないかと思う。絵画も勿論それぞれの嗜好によるものだし、それはそれで成り立っている社会があるだろうから勿論口は挟めない。印象派の画家たちは嫌いじゃないけれど、リアルな人間を観察し描かれた、命や魂が伝わってくる絵画が今はいいなと思う。人工知能が発達してきた今という時代だから、余計にそう思うのかもしれない。

帰りに、館内のショップで「ヨーロッパの図像 花と美術と物語 解説・監修 海野弘」という分厚い本を買って帰った。表紙は銀色(少し玉虫色)でエンボス加工されていて、とても美しい。テキスタルや細密画など様々に表現された花々が美しく描かれていて、ページをめくるたびに幸せな気分になる。近年はきっと色んな絵画がデジタル化されて、莫大な情報の中からの収集や加工がし易くなってきているのだろうと思った。それでも最終的な所は編集する人のセンスの問題。海野弘という人の名前はこれまでも何度か出逢ってきた人。多くの本物に触れ、意を共にする、良き人の出会いからこの本が生まれている気がする。この本を手に入れられたことはちょっと嬉しい。

この頃は相方さんの影響もあって、音楽にばかり指向が向いている気がするけれど、これからも山口県立美術館に足を運び、絵画等に触発されながら、人間として人間らしく日々を生きて行きたいものです。