猫とつばめと私

夕暮れ時、出かけようとしていた私に起きた事件は最悪の状況だった。猫はバタバタという羽音と共にキッチンに入ってくる。悲鳴と怒鳴り声の私と、捕まらないように逃げようとする猫と、バタバタと逃げようとするツバメ。
ツバメと猫を引き離したものの、ツバメは既に飛べない状況。私の手には血痕。そして飛びたくても飛べないツバメ。渡り鳥が飛べないということは、待っているものは死。もう仲間と一緒に数千キロの旅をすることもできない。ため息と涙を浮かべてもどうしようもない事態。

その日は、ピアノが秋吉台で聴けると友達がおしえてくれ、密かに楽しみにしていた。暗いし行くのが怖いから悩んでいたけれど、なんとか行けそうな気分になり、出かけようとしていた矢先のこと。結局ピアノの方はキャンセル。

手のひらの中で看取ろうと思い、飛べなくなったツバメを手のひらに包んだ。間近にツバメを見たのは初めてだった。遠巻きに背中がややブルーに光るのをみて、キレイだなと思っていたけれど、近くで見ると、光線の関係で、ブルーだけでなく深いグリーンにも光る。まだ何とか生き延びてくれるかも?と思って餌を買いに行ったけれど、買ってきたミルワームは食べてくれず、割り箸に滴った水を飲んだ。

生きている虫を捕ろうと思って外に出ていたら、ツバメが上空に現れ、まるで私にその姿を知らせるようにして、暫く飛び交った。多分、我が家で生まれた子供たちだろうと思う。段々その数を増やしていき、ざっと数えて12匹位集まってきて上空を飛び交った。おたおたしていた心が少しだけ解けた。

結局生きている虫の捕獲もできず、助けてあげることは出来なかった。助けてあげる力がない自分が悲しかったけれど、仕方が無い。仮に何日か生き延びることができたとしても、渡り鳥は冬になればここでは生きていけない。

ツバメは威嚇しようとして、猫の側をかすめ飛んでいたに違いない。それをいつもはバッタ、ヤモリ、蝶々が専門のクゥー(猫)が捕まえてしまったのだろう。クゥちゃんは自分がご飯を貰った後、私に獲物を捕ってきてくれようとしただけ。クゥちゃんは私の事を気遣って餌を運んできくれた。でもその獲物となったのは大好きなツバメだった。ショック。

この一羽が死んでしまったら、巣に残された4匹の雛たちも餌を運んでもらえず死んでしまうのかと思ったけれど、ちゃんと親鳥が餌を運んできていた。片親になったら雛たちの口に運ばれる餌も半分になってしまうのかと心配したけれど、今日みたら、巣に餌を運んでいたのは一匹だけではなく、他にもいた。どうやって、ツバメはお互いの意思疎通をとっているのか解らないけれど、すぐに応援に来ているツバメがあることが妙でそして少しホッとした。

好きな者達の死は殊更悲しいけれど、それも全て大きな懐の中。亡くなったツバメをずっと見ていたら、すこしイイ顔(笑顔)になったような気がするから、よしとする。

腕や肩に止まってくれた君は気持ちよかったよ。助けられなくてごめんね。奇麗な姿を間近に見せてもらったよ。ありがとうね。また逢おうね。