12月4日、待ちに待った角野隼斗氏のピアノリサイタルに行ってきた。場所は大宰府のカワイ福岡コンサートサロン”ルーチェ”。他会場はホールだけれど、福岡会場はサロンで座席数はわずか80席。発売当日にソールドアウトだったらしい。超レアチケットを私の分まで入手してくれた友にはもう感謝の他ない。片道約2時間半。自由席ということだったので、18時半開場で19時開演だったけれど早めに家を出て17時には会場入りした。おかげで着席できたのは前から2列目の手元が見える側の席。演奏者と2列目の私達の席の距離は多分3m半位だったのではないかと思う。こんなに近くで聴けることは、今後まずないだろうと思う。私達の前には長崎から電車で来たと言われていた若い母娘と佐賀(だったかな)から男の子(6歳と4歳位)2人をつれたピアノを習わせているだろう若いお母様。後ろを振り向くと、いつもの音楽リサイタルとは一寸感じが違う印象を受けたけれど、都庁のストリートピアノの動画の影響も影響もあるのかな?という気がした。https://www.youtube.com/watch?v=027_-mZeeIQ
角野隼斗氏は現在、東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻修士2年。2,018年9月より半年間、ソルボンヌ大学在籍、フランス音響音楽研究所 (IRCAM) にて音楽情報処理の研究に従事。第42回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、併せて文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。
https://todai-umeet.com/article/38582/
ネット上の画像で見てはいたものの、近くで生でみた角野さんはお目目ぱっちりで本当に細くて華奢だった。東大生なのに、驕り高ぶった所が全くない。こんな人がいる?!のよね。そんな人が結構な至近距離の目の前で演奏されていたと思うと、今思い出しても、信じられないような時間だった。
PROGRAM
半音階的幻想曲とフーガ ニ短調BWV903 [J.S.バッハ]
ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61「幻想ポロネーズ」[F.ショパン]
幻想的小品集 嬰ハ短調 作品3-2「鐘」[S.ラフマニノフ]
ピアノ協奏曲 第1番「蠍火」[Virkato Wakhmaninov]
休憩(15分)
交響曲 第2番 ホ短調 作品27 第3楽章 (ピアノソロ編曲版)[S.ラフマニノフ]
TK from 凛として時雨[Unravel]
ピアノソナタ第2番 変ロ短調 作品36(1931年版)[S.ラフマニノフ]
角野さんの演奏を聴いて一番印象的に思ったのは、ものすごく高速にもかかわらず「一音一音が極めて明確で明瞭である」ということ。音ゲーというのを私は知らなかったけれど、中高と角野さんは音ゲーに嵌っておられて、その時培われたものは大きそう。
他に興味深く思ったのが、ペダル。前から2列目だったのでペダル使いがとてもよく見えた。右ペダルを踏むと音が解放されることぐらいしか知らない私だけれど、角野さんは微妙に調整をされていて、踏み込んでから戻すまでをとても慎重に丁寧にされていた。そして左右のペダルの連動のさせ方が、なんだかすごくて、どういう効果になるのか素人にはまるで解らないけれど、訳わからないなりに見入ってしまった。
音色も面白くて、2曲目のバッハは、エレクトーンチックに聞こえたり、チェンバロチックに聴こえたり、一台の楽器なのに、色んな音色が聴こえてきた。
今回は席が近かったので、爪が鍵盤に当たって鳴る音が聴こえたり、音量が大きい時は足の裏(靴の底)に振動が伝わってくるのも感じた。
隅々まで明確なのだけれど機械的な印象はなく、高速なのに弾き飛ばしてる感もない。生命に対する温みのようなものを感じた時は、猫を飼っておられるのは影響あるのかしらね?と思ってみたり・・・笑
以下、パンフレットの中の記事からの抜粋
~~~・・・クラシックはクラシックだけで閉じた世界ではなく、世の中のあらゆる音楽と密接に繋がっており、そこに隔たりはないんだということを、このコンサートを通して皆様にお伝えできればと思っております。~~~
この頃はピアノのコンサートも、音大であまり世の中を知らないお嬢様たちの閉じられた世界の音楽という気がして(勿論偏見多々あり・苦笑)チラシをみても行く気にはなれず。でも角野さんは違っていた。友に動画を紹介されたときも、え?なんじゃこの人?!!という感じ。
余り音楽に詳しくはないので、具体的に多くを知らないし挙げられないけれど、クラシックが引用されている曲というのは多々ある。きっと過去から現在、色んな所で繋がって、意外な縁起で結ばれている。
私にとってクラシックはずっとある種閉じられた世界という感はあるけれど、角野さんにとっては、この世にあまたある音楽はジャンルは違えども、どこか有機的に繋がっている・・・それぞれにルーツは違うようでどこか影響しあっているというような感じ(?)。クラッシックが上でポップスなどは下という見方もしておられないみたい。演奏を聴きながら、有機的な繋がりをこれからどこかに掴めていけそうになる気もした。
それから、今回とてもいいなと思ったのが、綴られたプログラム。プログラムはコンサート毎に勿論読むけれど、今回のプログラム(冊子)は音楽に然程通じていない私の様な人にとってはとても良かった。興味深い曲の解説と、その下に”SUMINO MEMO” として、角野さんの解説や想い、考えなどが率直に書いてあった。曲の背景も知ることができ、また曲の中での対比であるとか、曲の聴き方など、音楽を習っている訳でもない私にとっては、とてもありがたく勉強にもなった。
曲の合間の解説も面白かった(ほぼ忘れたけれど^^;)。
そして、 聴きたかった「蠍火」も聴くことができた。
この角野さんという人は、勿論東大の頭脳だから、インプットの情報量も網羅する範囲も理解の範囲も勿論並みではないだろうけれど、センスのよいアレンジ曲から想像するに、意図を汲む能力にとても丈ておられるように思った。それに東大なのに(東大に対する偏見もアリアリでしょうが、まぁ、官僚的な人が多いだろうなっていうのは勝手に普通に思ってます。)人間味がある事への理解もちゃんとある感じ。私はこの人の事を永遠に「へぇ~~~っ、すごっ!」って言っていそうな気がする(笑)。
プログラム最後はラフマニノフ「ソナタ第2番 変ロ短調 作品36」。視覚聴覚の処理に脳が追いつかず、クラクラしてきそうになるのを(←角野さんがそんな様なことを言っておられた)意識は残して技術的にもコントロールしないといけない。体力、精神力も使うので一番最後にしているとのことだった。
途中で愚図り始めていた私の席の前の小さな男の子も、最後のこの曲の時は目をパッチリ開けて集中して聴いていた。 私には半分呆然としてしまうような演奏。帰路で「昇天しそうだったわ」と友に話すと、友も「あんな曲を聴きながら死ねたら幸せよね」と返してきた。アンケートには「脳卒中で倒れそうになりそうなくらい素敵な演奏でした」と書いた(笑)。その位すごかった。
アンコールで、半年間?留学していたフランスで角野さんが作曲したという作品を弾いて下さった。タイトルは「After The Monochrome」。いつもどんよりと曇っていることの多いパリで偶に青空が広がることがあるそうで、その時の印象などを元にして書かれた曲・・・だったかな。フランスは若い頃から何度か訪れることがあったので、パリの石畳や空気感、ロマンチックな感じを思い出しながら聴きました。また生で聴けるといいな。
今回の私の反省点?としては、 角野さんは、曲と曲の繋がりなどをしっかりと聴いてもらいたかったと思うけれど、ピアノを始めて2,3年の私は、席が近かったこともあって、手元ばかりに目が行ってしまい、全体の構成や繋がりは、角野さんが意識されているっぽかったけど、上手く測りながら聴けておらず・・・。
演奏会後、サイン会があり、勿論サインも貰いました。サイン貰えないかなぁ、、と思って、ジャケットのポケットに忍ばせて行ったお手製の小さな猫のお人形。これにサインしてして貰う事はできますか?と側におられたスタッフの方に訊くと簡単にOKして下さり、その後、角野さんの手の中に。小さな布製でヘンテコリンなそのお猫を見て、笑顔で”カワイイ”と言われていた角野さん。優しいというか角野さん可愛すぎ。心の中で舞い上がりそうになるのを抑えて私は固まっておりました。サインするスペースも小さく(中にはラベンダーの花穂が入っている)書きづらいお猫のお腹を指で平らにした後、思ったより丁寧にサインをして下さいました。少し多めに時間かかってしまって後ろで待っている人達に申し訳ないなぁと思いつつ、感激でした。(後で満面の笑みだったと判明したけど、その笑顔を私はアタフタして見ておらず。はぁ~残念。)偶々私の前の女の子が握手をして貰われていたので、私(←握手魔・笑)もちゃっかりお願いして握手してもらいました。萌~~(笑)
初めて回られる全国ツアーで、福岡で弾くのは初めてと言われていた角野さん。これからもっともっと有名になって行かれるであろう角野さん。こんなレアな演奏会に行けて、角野さんの生のピアノを聴けたこと、誘ってくれた友には言葉にできないくらいの感謝。本当にありがとう。
角野さんを知ってから、そして、演奏を聴いてから、色々考えさせられもしたし、刺激的でした。そのインスパイア―具合といったら、近年稀なほど。爆発的といって良いほど私の音楽に対する世界が広がった気がする。
新たな音楽の見方、考え方ができた気がする。新しい目線や捉え方でまたピアノを弾いていくぞー。角野さん、そして、関係者の皆さん、ありがとうございました!!